弁護士竹内裕詞が、2018年6月8日に、東京・御茶ノ水の中央大学駿河台記念館で行われた日本相続学会のオープンセミナー「所有者不明土地問題」のセミナー講師を務めました。
日本相続学会では、円満・円滑な相続を実現するための諸制度の整備を目指して、高いレベルの研究活動や立法提言をするために、研究部会を置いています。
研究部会では、昨年までは相続法改正問題を中心に活動をしていましたが、今年は新たに「所有者不明土地問題ワーキングチーム」を立ち上げ、相続法改正と併せてこの問題に取り組んでいくことになりました。私、弁護士竹内裕詞も、ワーキングチームの一員として、この問題を研究しています。
今回のセミナーは日本相続学会が初めて所有者不明土地問題をテーマにするものでしたから、私から、概略次のとおり、所有者不明土地問題は何かというお話と、所有者不明土地問題をめぐってどのような動きがあるかというお話をさせていただきました。
所有者不明土地について
所有者不明土地とは、不動産登記などから所有者がすぐには分からない、又は分かっても連絡つかない土地のことをいいます。
など、所有者不明土地の実態調査が行われています。
これを踏まえて所有者不明土地問題研究会は、全国の所有者不明土地の面積合計は九州の面積を超えるとの試算を示しています。
所有者不明土地により、震災復興、公共事業用地取得、農地集約利用、地籍調査などに支障が生じています。
政府もこの問題を重く見て、
などの基本方針に所有者不明土地問題を取り上げるとともに、所有者不明土地対策の推進のための関係閣僚会議を開催して対策を指示しています。
これを受けて、
など、所有者不明土地への対応を定めた新法制定・法改正が次々と進められています。
また、
- 所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会(国土交通省)
- 所有者不明土地問題研究会(国土計画協会)
- 共有私道の保存・管理等に関する事例研究会(法務省)
- 国土審議会所有者不明土地問題等に関する特別部会(国土交通省)
- 相続未登記農地等の活用検討に関する意見交換会(農林水産省)
- 登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会(金融財政事情研究会)
など多くの研究会、検討会、審議会などが所有者不明土地問題について検討・研究しています。
所有者不明土地対策の推進のための関係閣僚会議で決定された所有者不明土地対策の推進に関する基本方針では、土地所有に関する基本制度や民法基本法制の見直し等の重要課題について、2018年度中に具体的な方向性を提示し、2020年度までに必要な制度改正を実現するとしており、今後、急ピッチで土地所有制度、不動産登記制度、相続登記に関して大きな制度改正が行われることが予定されています。
セミナーでお話した内容
セミナーでは、私の私見として、次の様な意見を述べさせていただきました。
- 「所有者不明土地」は土地を利活用する側から土地所有者が把握・連絡できない土地をいうのだということを踏まえて「所有者不明土地問題」を理解する必要がある。
- 所有者不明土地問題が発生する根本原因は、(1)強くて無制約な土地所有権制度、(2)不動産登記が対抗要件に過ぎないこと、(3)相続制度が包括承継主義を採用していることにある。
- 「私財」である土地を「公共財」、「生産財」として利活用する制度構築には、財産権の違憲な侵害にならないようにしなければならないという前提がある。
- 戸籍・住民基本台帳等の不動産所有者に関する情報を利用して、不動産登記で公示するには、個人情報保護の観点が必要である。
- 相続未登記の解決策を検討するには、相続の現場で遺産分割の障害となっている問題への理解が不可欠である。
今後、日本相続学会の所有者不明土地問題ワーキングチームで、所有者不明土地問題(主に相続未登記問題)を研究し、11月に山梨県甲府市で行われる日本相続学会の研究大会で成果を発表することになります。
ご期待ください。